Uploaded on April 30, 2025

Last modified on May 1, 2025

The Network Project

An experience in computer networks that, funnily enough, taught me the necessity of constraints and competence.
青森大学のネットワーク構築プロジェクトに関わることで、 'constraints'(制約・縛り)の必要性とコンピテンシーの重要性を肌で感じた。そして、自分の受ける分とはどういうものかを考えさせてくれたものだった。

Related project:

University

Aomori University's Network Project

謝辞:ご指導いただいた 下條 真司 教授 にいつも心から感謝いたしております。


In Japanese

はじめに

2023年度5月より、青森大学のネットワーク構築プロジェクトが開始した。 ネットワーク構築プロジェクトは、青森キャンパスをはじめに、学内ネットワークを全面的に再整備する取り組みである。
第一段階として、eduroam導入プロジェクトが実施されたが、2024年1月をもって無事に完了したのだ。(※ eduroam導入プロジェクトについて

第二段階として、ネットワーク機器の交換やネットワーク設計の見直しを行うことが決定された。 (※ 執筆時点では、この第二段階はまだ未完了である)

MVP:最小限の動くもの

どんなことでも何らかの 'constraints'(制約・縛り)がかかっているのだ。 制約があってこそ、はじめて抽象的なもの(例えば、計画や夢など)が具現化していく・形をとっていく。 言い換えれば、出来ないことがあるという前提で物事について考えると、出来ることが明確になり、行動指針が定まってくる。 置かれた状況の諸々の制約を考慮した上でそれに合わせて開発・構築された、最小限の動くものこそが "MVP" である。

ネットワーク構築プロジェクトの第二段階に進むにあたり、あらゆる制約があることに気付いた。 が、そのおかげで、今後どのような姿勢で取り組むべきかを悟ってきたのだ。

論文、特に修士論文、を書きはじめる学生によく次の助言をする。 "良くない" 初稿を書くように、と。... そうすると何かのモノが出来上がるんだ。 そして、それを繰り返し改善することが可能になるんだ。 あの "良くない" 初稿こそ、最も貴重なものだ!

J・B・ピーターソン、"Lecture: Biblical Series IX" の講演より。

制約1:手探りで進めるしかない

学内ネットワークを再構築するときに、目指すネットワーク構成の論理構成図を指導教員に用意していただいた。 ただし、長年にわたり(指導教員が青森大学に入る以前から)ネットワークがおろそかにされてきたので、 正確で詳細な物理構成図や、参考にできるネットワークに関する過去の資料がごくわずかだった。 その状況下で何かを変えたら、予測できない影響・副作用を学内ネットワーク全体に及ぼしかねなかった。

はじめにこのことを嘆いたが、嘆きが何も解決しない息の無駄遣いだと思い、納得が行かなかったが状況を受け止めた。 手探りでやるしかない、ということが明らかになった。

Server room! 写真1:物理層がばらばらのネットワーク

制約2:部分的に、走りながら改良していくしかない

どこでも同じだが、特に大学のネットワークは毎日稼働していなければならない。 止まることはないし、止めることもできない。 また、新しいネットワーク機器がすべて揃ってから交換作業に取り組むことが理想的であるものの、 言うまでもなく万事そう上手くいかないものである。

その時に解決策として機能できそうな、その時に手元にある機器を、 そのときのためだけに設置して運用する、という形の対応が実際に多く求められていた。

何かを改良するならば、それを走りながら進めるしかなかったのだ。

NW Equipment 写真2:実験用ネットワークの構築に使用したNW機器

ノート:使用したネットワーク機器がまちまちであった。
① 実験段階:AX3640S-24T (L3)、AX2530S-48T2X (L2)
② 運用段階:YAMAHA RTX の製品 (L3)、AX2600Sシリーズの製品 (L2)
③ 学会NW構築:AT-ARX200S-GTX (L3)、AT-x230-18GP (L2)

制約3:必ず動作しなければならない

ネットワークは必ず動かなければいけない。 これは当然ながらも最重要なことである。 初心者だろうがベテランだろうが、 しっかりと責任をもって努力を惜しまないことが重要と示唆する事実だ。 つぎはぎであっても適当に見えても 、最低限に動くものをとりあえず構築する必要がある。

それさえ出来たら、出来上がったものに改善を施せば、あるべき姿に少しずつ近づけていくものだ。

必要なのは、フットワークの軽さ(コンピテンシー)

こういった制約の中において、プロジェクトを成功に導くために、フットワークの軽さが肝心だ。 どんなことでもそうだろうが、常にコンピテンシーを求められているのだ。

一つの技術をきわめるとか、一つの特定の機器のみ手際よく扱えるようになるとか、それだけだと足りはしない。 だからといって、何か一つのことに専念してそれをきわめることはない、というわけでもない。 むしろ、そこからはじめるのが正解であり、何かの土台がなければ何も出来ないからである。

目指すべきなのは、 単なる特定の技術ではなく、 どの技術でもきわめることができるようにさせてくれる方法論や思考方法をつかみとることなのだ。 なぜなら、簡単にいうと、技術そのものは常に変わりつつあるからだ、 また置かれた状況下の 'contraints'(制約・縛り)によって使える技術が限られるからだ。 これこそ真のコンピテンシーである。

何よりも、'competent' な(コンピテンシーのある)人ほど、前向きなのだ。 どの状況にいても「然るべきことをすればなんとかなるだろう」と考えられるわけだ。

すると、本当の問いは 「この特定のゲームに勝ちたいのか?それとも、複数のゲーム(ゲームの集合体)に勝ちたいのか?」になる。 そして、全ての可能なゲームを治めて支配するルールセットがあるように思われる。

J・B・ヘンダーソン、"Hierarchies, Inequality, Big 5" についての講演より。

コントロールできないことはある

この第二段階に1年間ぐらい(執筆時点:2025年4月)取り組んできたものの、 当然すべて思う通りにならずに進み具合が多少遅い。 大きな要因の一つとして、ネットワーク機器の交換作業の一部を進めるために、 ある建物の電線管に光ファイバーケーブルを新しく敷設して通すことが必要だ、ということがある。 しかし、ある程度の、無視できないようなコストがかかるため、行き詰った状態がしばらく続いてきた。 ただし、これは仕方がないことであって受け止めるしかないのだ。

また、ネットワークに関わる方々がよく分かることなのだが、 ことがうまく運ぶときに誰も何も言わない。そして、この何もない状態は良くて喜ぶべきものである。 もちろん喜んでくれる利用者もいるが、それは稀なことだ(※ そういう人は本当に素晴らしいもので尊い)。 ところが、うまく行かない場合、文句をつけて言われたりする。 これも仕方がないことであり、大人の対応で何とか済ませるしかない。 これは、この業務に携わる人としての受ける分であり、それをいち早く認めて受け止めるが良いだろう。

そして何より、 私は人間だから失敗をするもので、うまくできないことが多いのだ。 そういう個人的な弱さや失敗によってプロジェクトがうまく行かなかったら、 対処方法はただ一つである。

自分の物足りなさを笑い、迷惑をかけた相手にスマイルし、 失敗を素直に認めてから謝り、立ち直って全力でもう一度挑戦することだ。

賢い人間が本気で何者かになることなどできはしない、何かになれるのは馬鹿だけだ.

F. ドストエフスキー の『地下室の手記』(新潮文庫) より抜粋。